4.言語の構造

【日本語教師養成講座】4.言語の構造|6.対照言語学:③言語の対照(ヴォイス/アスペクト/テンス/対人的モダリティと対事的モダリティ/認識的モダリティと拘束的モダリティ/完了のタ・ムードのタ)

4.言語の構造|6.対照言語学:③言語の対照(統語的観点・意味的観点)

言語の構造「ヴォイス」「アスペクト」「テンス」「対人的モダリティと対事的モダリティ」「認識的モダリティと拘束的モダリティ」「完了のタ・ムードのタ」などについてのまとめです。

ヴォイス(態)

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ヴォイス:「れる・られる」。受身・使役・使役受身・可能・自発・授受表現がある。

  • 受身:「によって提唱された・学生の意欲が高められる」。
  • 使役:「書かせる」。
  • 可能:「まだ食べられる」。
  • 自発:「昔の友人がしのばれる・望まれる・案じられる・思いやられる」。
  • 尊敬:「社長が来られる」。

受身(直接受身と間接受身)

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受身文には以下の3つがある。

  • 直接受身文:主語と目的語が入れ替わる。「子どもがお菓子を食べる」→「お菓子が子どもに食べられる」。
    「先生に掃除を頼まれる」→「先生が(私に)掃除を頼む」。
    「夫が知人に批判される」→「知人が夫を批判する」。
    「若者から席を譲られる」→「若者が席を譲る」。
  • 間接受身文:マイナスの意味になる(迷惑受身)。主語が「私は」になる。主語と目的語が入れ替われない。言い換えると自動詞になる。
    「(私は)花子に先に就職された」→「花子が先に就職した」
  • 持ち主の受身文:主語が「私は」になる。
    「(私は)スリに財布を盗まれた」→私が財布の持ち主。
    「(私は)弟に頭をたたかれた」→私が頭の持ち主。

「(私は)上司に残業をやらされた」→そもそも受身ではない(使役受身)。
「やる」の受身は「やらせる」。ひっかけ問題。

直接受身文

直接受身文は助詞に「に」「から」「によって」がつく。

・(〜によって)生み出された
・(〜によって)建てられた
・(〜によって)作られた
・(〜によって)描かれた
・(〜に)見られた:「私が子どもに見られた」←「子どもが私を見る」

・「私は太郎に邪魔された」:邪魔するという動きの直接的な対象が私。
→直接受身
・「私は太郎にぶつかられた」:ぶつかるという動きの直接的な対象が私。
→直接受身
・「(私は)雨に降られた」:降るという動きの直接的な対象が私ではない。たまたま私にも被害が及んだだけ。→これは間接受身となる。

受身にできない動詞:可能動詞

  • 移動動詞:「行く→行かれる」「泳ぐ→泳がれる」:受身可
  • 意思動詞:「遊ぶ→遊ばれる」「書く→書かれる」:受身可
  • 継続動詞:「降る→降られる」「立てる→立てられる」:受身可
  • 可能動詞:「飲める→飲められる」「書ける→書けられる」:受身不可

使役

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使役文には、強制・容認・原因・責任・謙譲の5つがある。

使役形の作り方

  • 1グループの動詞:[a]の音に変えて「せる」を付ける。「書く→書かせる」。
  • 2グループの動詞:「る」を取って「させる」を付ける。「見る→見させる」「食べる→食べさせる」。

謙譲

「電話させていただきます」「分析させていただきます」。

強制

「上司に残業をやらされた」

感情や思考が引き起こされる使役

「あの人の態度に感心させられた」

可能(能力可能と状況可能)

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  • 能力可能:「わたしは40キロも走れない」
  • 状況可能:「運動場に水たまりができて走れない」

「食べられる→食べれる」のようにら抜き言葉が使われるようになる。この可能の分化は、現在進行中の歴史的変化と言える。

歴史的変化と言えば

ハ行の唇音退化(両唇音が使われなくなったこと)が有名。
奈良時代前までは[p](パピプペポ)で、奈良時代に[ɸ](ファフィフフェフォ)に変わった。江戸時代に「ハヒフヘホ」になった。
口唇音→口唇摩擦音→声門摩擦音(ハヘホ)・軟口蓋摩擦音(ヒ)・両唇摩擦音(フ)と変化。

イ列「ゐ・ヰ」・エ列「ゑ・ヱ」における二種の仮名の使い分けは、歴史的仮名遣いであって歴史的変化ではない。

自発形

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自発動詞・受身形・可能形の3つがある。

  • 自発動詞:2つのみ「見える聞こえる」。
  • 受身形:「思われる・考えられる」。「思う・考える」は認識動詞。
  • 可能形:「泣けた・笑えた」。

アカデミック・ジャパニーズでの用法

自発形「思われる」→自分
受身形「思われている」→他者
認識の主体が違う。

授受動詞

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昔はなかった授受表現。視点によって動詞の使い方が変わる。
発話の場にいなければ意味が分からないダイクシス
ダイクシス

恩恵表現

「あげる・やる」:敬語「さしあげる」謙譲語Ⅰ
「くれる」:敬語「くださる」尊敬語
「もらう」:敬語「いただく」謙譲語Ⅱ
敬語の指針:尊敬語・謙譲語・丁寧語・美化語

物の授受と恩恵の授受

  • 物の授受:「太郎にプレゼントをもらった」
  • 恩恵の授受:「太郎に日本語を教えてもらった」

アスペクト

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アスペクト:問の変化の局面(aspect)を表す。何らかの出来事(動作)における時間的な変化。開始・進行・完了。
形容詞「おいしい」は変化の局面がおこりにくい。名詞は変化の局面がない。

  • 開始:日本語「動詞+かける・はじめる・だす」/英語「begin to+動詞」。
    「描きはじめる」
  • 進行(動作の継続):日本語「動詞+ている・つつある」/英語「be+動詞ing」。
    「描いている」「走っている」
    完了の「テイル」もある:「授業は終わっている」「こなごなに割れている」
  • 完了:日本語「動詞+おえる・きる・た」/英語「have+過去分詞」。
    「描き終わる」

開始「〜てくる」

だんだん涼しくなってくる。動きの進展。
「運んでくる・やってくる・持ってくる・送ってくる」とは意味が違う。

進行(動作の継続)「〜ている」

「運動場で学生が走っている」

学習者の誤用

試着のとき服が破れていたのに、学習者が「服が破れました」と誤用。「破れました」だと、最初は破れてなくて破れたその場を確認したことになる。
「破れていました」が正しい。

結果「〜ている」

「道端に財布が落ちている」

移動「くる・きた」

・「雨が降ってきた」:移動は起こってない→アスペクト。
・「車が近づいてきた」:移動が起こっている→「近づく・来る」がくっついた動詞でアスペクトではない

テンス

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テンス:時制(tense)を表す。未来・現在・過去。絶対テンスと相対テンスがある。

  • 過去:英語「went」/日本語「行った・あった」タ形
  • 現在:英語「go」/日本語「ある」ル形(辞書形)。
  • 未来:英語「will go」/日本語「行く」ル形(辞書形)。
  • 絶対テンス:発話時を基準とする。過去「行った(タ形)」・現在「いる(ル形)」・未来「行く(ル形)」。
    「競馬で負けて、やけ酒を飲んだ」
  • 相対テンス:複文で従属節は相対テンスとなる。発話時と無関係に従属節のタ形かル形かが決まる。
    「(従属節:相対テンス)東京に出てくときに、(主節:絶対テンス)友達が集まってくれ」。従属節の述語は相対テンス。

「明日会った時」:未来の過去形。

ル形のテンス

未来と恒常的の2つの用法がある。

  • 未来:「もうすぐ晩ご飯を食べる」
  • 恒常的:「太陽は東から昇る」

完了のタ

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完了のタ形は、テンスじゃなくてアスペクトになる。
過去か完了かは、疑問文にして否定で答えたら分かる
・「楽しかった?」→「ううん、楽しくなかった」:過去→テンス
・「会えた?」→「ううん、会えなかった」:過去→テンス
・「読みましたか?」→「いいえ、まだ読んでいません」:未完了→アスペクト

楽しかっ→テンス(過去)のタ
書い→アスペクト(完了)のタ
昼ご飯は12時に食べた→テンス(過去)のタ

昼ご飯ならもう食べた→アスペクト(完了)のタ
今の時点で食べたという動作が完了している。現在のこと。現在完了。

ムードのタ

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ムードのタ」:特殊なタ形。「モダリティのタ」ともいう。
ムード=モダリティ

  • 反実仮想:実際に実現してない「買えのに・・・」。
  • 発見:「こんなところにあっよ」。
  • 想起:思い出して言う「会議だっな・・・」。

「可愛かっな・・・」はただの過去形。

モダリティ

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文は基本的な部分である命題と話し手の気持ちを表すモダリティからなる。

例:
「日本が勝つと思う」→「日本が勝つ(客観・命題)」+「と思う(主観・モダリティ・ムード)」。

対人的モダリティと対事的モダリティ

  • 対人的モダリティ:聞き手に対してが命題をどう働きかけるか。人に対して言う。
    命題「コーヒーを飲む」+モダリティ「みませんか・んでください・みなさい・んでもいい・んではいけない・か(質問)・だろう・よね」
    例:「食べても(命題)/いいの(対人的モダリティ)」
    意志動詞(制御可能な動詞)がくる。「光る→光りませんか」はおかしい。
  • 対事的モダリティ:話し手が命題をどう捉えるか。
    命題「日本が勝つ」+モダリティ「と思う・かもしれない・はずだ・ようだ・のだ・べきだ」。
    例:「雨が降る(命題)/そうです(対事的モダリティ)」

例:「腐っているっぽいよ」
→「腐っている(命題)/っぽい(対事的モダリティ)/よ(対人的モダリティ)」

対人的モダリティ

「父は私にもっと真面目にやれと叱ってきた」は対人的モダリティ。「もっと真面目にやれ」は父の発話。「やれ(やる)」は働きかけのモダリティ。

忠告と義務

・忠告:「あなたはもっと勉強しなければならない」→対人的モダリティ。
・義務:「学生は一生懸命勉強しなければならない」→対事的モダリティ。

認識的モダリティと拘束的モダリティ

対事的モダリティ

認識的モダリティと拘束的モダリティに分けられる。

  • 認識的モダリティ:真偽を判断するモダリティ。
    認識的「まい・ちがいない・はずだ・だろう・らしい・そうだ」。
    たぶん日本が勝つだろう
    「日本が勝つにちがいない
    「日本が勝つはずだ
    「日本が勝つかもしれない
    「まさか〜よね」だと対事的モダリティになる。
  • 拘束的モダリティ:義務や許可を表す。
    断定的・拘束「べきだ・ほうがいい・なさい・なくてはいけない」。
    拘束からの免除(許可)「のだ・てもいい」。
    ル形「やるほうがいい」、タ形「やったほうがいい」どっちでもいい→テンスの対立がない

モダリティがよくわからなかったので、こちらの動画をみてみました。48分あたりからがモダリティの説明です。

日本語教師養成講座420時間のはま

んだ文・のだ文

使い方

・説明を求める・理由を説明する。
・言いたいことを強調する。

「んだ・んです」:話し言葉。
「のだ・のです」:書き言葉。

文法

  • 動詞:普通形+「んです・のです」。「行くんです」
  • イ形容詞:普通形+「んです・のです」。「おいしいんです」
  • ナ形容詞:「なんです・なのです」。「好きなんです」
  • 名詞:「なんです・なのです」。「休みなんです」

語が文法的に出てくる順番

ヴォイス→アスペクト→テンス→モダリティ

例「読ませていただろう」

「せ=ヴォイス」「てい=アスペクト」「た=テンス」「だろう=モダリティ」。

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