7.語用論的規範

【日本語教師養成講座】7.語用論的規範|3.談話分析・会話分析(談話分析/隣接ペア/優先応答/談話標識/修復/結束性/照応/橋渡し推論/精緻化推論)

7.語用論的規範|3.談話分析・会話分析(談話分析/隣接ペア/優先応答/談話標識/ターン/修復/結束性/照応/推論)

語用論的規範「談話分析」「隣接ペア」「優先応答」「談話標識」「修復」「結束性」「照応」「橋渡し推論」「精緻化推論」などについてのまとめです。

談話分析

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談話(ディスコース):文よりも大きい言語単位。複数の文が連結する構造。大きく以下の3つからなる。

  • 開始部:「あのー、ちょっといい?」「うん、なに?」
  • 本題:「課題の締め切りについて聞きたいんだけど」「今日の授業のね」「締め切りは木曜だっけ?」「木曜の15時までだって」
  • 終結部:「ありがとう」「いえいえ」「じゃあね」「じゃあね」

開始部

切り出し:「あのー」「すみません」「いま、大丈夫?」

終結部

前終結:終結の前段階「ありがとう」
終結:会話の終わり「じゃあね」

共同発話

共同発話:複数の発話者で会話を作り上げること。

例:「毎日寒くて寒くて・・・」→他の人が「嫌ですねー」。
「寒くて」の後にマイナスの感情が言われることを予想して、他の人が言う。
「本当ですね」だと、共同発話ではなくただの相づち。

共同発話での繰り返し

相手への共感や一体感になるが、新しい情報は提示しない。

例:「今日は寒いね」→「寒いね」。

隣接ペア

隣接ペア:ペアになってる2つの発話。発話のやり取りの最小単位。
挿入連鎖:隣接ペアの間に別の隣接ペアが入ること。
ムーブ:複数の発話の組み合わせ。「ペン、貸してくれる?」「どうぞ」「ありがとう」。

優先応答と非優先応答

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例「久しぶり、飲みに行かない?」の返答

  • 優先応答:「いいねえ」
  • 非優先応答:「うーん(フィラー)、最近あまり胃の調子が良くなくて(弁明)、明日も早いし・・・(言いさし)」。
    「苦情」を言った場合、返答は「謝罪・補償・交換」が考えられるが、「弁明」で返答すると非優先応答。

談話分析その他

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  • 垣根表現(緩衝的表現・ヘッジ):断定的な表現を避けるために使う。
    「明日のテスト、この漢字出る?」→「うーん、多分出るんじゃないかな」。
    「今から手伝ってくれない?」→「明日とかならいいよ」。
  • 注釈表現:解説者風の抽象的な説明を先につける。
    「長くなるかも知れないけど」「こんなこと言いたくないんだけど」。
  • スモールトーク:挨拶的な役割、コミュニケーションを円滑に進めるためのやり取り。「雨だね、よく降るね」「そうですね、もう4日目ですね」。

談話標識

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談話標識(ディスコースマーカー):会話の流れをコントロール。その後にどう続くかの手がかりとなる。

  • 呼びかけ・切り出し:「あのー」「えー」「すみません」「では」。
  • 逆接的:「だけど」「でも」。
  • 話題転換:「あのさぁ」「ていうか」「ところで」。
  • 相づち:「へえ」「ふーん」「ええ」「うん」「そう」。話を聞いていることや理解していることを示している。言語メッセージ。
  • フィラー:「うーん」「えーと」「まあ」「あのー」「そうですねえ」。次の発話までの時間を確保。非言語メッセージでパラ言語
  • 言いさし(言いよどみ):「仕事が溜まってて・・・」。文が終わらないまま終わるぼかし表現。
  • 言い換え:「つまり」。後に説明が続く。会話の流れを決める
    「そこで・と言いますのは・だから」は談話標識ではない。

ターン

ターン:発話の順番のこと。

  • ターン・テーキング:発話の順番を取ること。
  • ターン・イールディング:発話の順番を譲ること。

オーバーラップ

オーバーラップ:相手の発話が終わってないのに発話を割り込むこと。
相手の話を遮(さえぎ)る訳ではない。
日本語の場合は「お疲れさまでした」など同時に発話して連帯感を強める場合に使う時もある。盛り上がって「そうそうそうそう」など。

修復

修復:発話の誤りを訂正すること。以下の4つに分けられる。

  • 他者指摘/自己修復:「新宿に友達と会いました」→「新宿に?」→「新宿で友達と会いました」
  • 自己指摘/他者修復:「新宿へ、に、を・・・」→「新宿で」→「ああ、新宿で友達と会いました」
  • 自己指摘/自己修復:「新宿に、あっ、新宿で会いました」
  • 他者指摘/他者修復:「新宿に友達と会いました」→「新宿にではなく新宿で」

修復は母語話者同士でもあり得る。

結束性

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結束性:文と文の間の文法的・語彙的な結びつき

  • 指示:「大きなダンボール箱があります。それを・・・」
  • 代用:「早く帰った方がいいよ」「はい、そうします」
  • 省略:「この問題難しいね」「いやあ、まったく」
  • 接続詞:「質問しに行ったんです、いらっしゃいませんでした」
  • 類義語:「がお世話になりました」「礼儀正しいお嬢さんですね」
  • 上位語と下位語:「何かお菓子を買って行こうか」「クッキーはどう?」

照応

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照応:特定の語が他の文のどこと対応してるか。以下の3つがある。
例「久しぶりに浅草屋に行きました」

  • 名詞照応:「いいねえ、浅草屋は安くておいしいよね」
  • 指示詞照応:「いいねえ、あそこは安くておいしいよね」
  • ゼロ照応:「いいねえ、おいしいよね」

さらに順番でみると、

  • 前方照応:「パソコンを買って、それがすぐに壊れた」
    あれがすぐに壊れた」だと、前方照応が正しく使えてない。→「そ系」の現場指示の誤りではない。
  • 後方照応:「こんなことがあったんだ、実は・・・」

推論

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推論:談話を理解する時、与えられた情報で予測すること。
読解中に行われる推論で、以下の2つがある。

橋渡し推論

橋渡し推論:情報を関連づけて、その内容を理解するためにギャップを埋める推測。情報と情報をつなぐ推論。

例:
「山田さんは会社を休んだ。彼女は昨日熱を出した」という文章から「山田さんが熱で会社を休んだ」ことが分かる。
「発表を見に行った娘が、合格証を持って嬉しそうに戻ってきた」という文章から「娘が合格したこと」が分かる。

精緻化推論

精緻化推論:会話に出て来ないことを自分の既有知識で推測すること。穴を埋める。

例:
「今朝一番の寒波の影響で・・・」というニュースから「通勤に時間がかかりそうだ」と推測できる。
「昨日、さいたま市近郊で放火事件があった。さいたま市周辺では、三日前にも同様の事件起こっている。現在、埼玉県警では二つの事件の関連を調査中である。」というニュースから「犯人が同一人物」と推測できる。文章の後の展開を予測する。

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