7.語用論的規範

【日本語教師養成講座】7.語用論的規範|5.社会言語学:①言語変種(言語変種/地域方言/社会方言/共通語/標準語/若者言葉・新語・流行語・役割後/ネオ方言・新方言/コード・スイッチング/スタイルシフト・スピーチレベルシフト/ティーチャートーク/フォーリナートーク)

7.語用論的規範|5.社会言語学:①言語変種(言語変種/言語の多様性)

語用論的規範「言語変種」「地域方言」「社会方言」「共通語」「標準語」「若者言葉・新語・流行語・役割後」「ネオ方言・新方言」「コード・スイッチング」「スタイルシフト(スピーチレベルシフト)」「ティーチャートーク」「フォーリナートーク」などについてのまとめです。

言語変種

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言語変種:言語の多様性のこと。「持ってあげましょうか?」「お持ちしましょうか?」「持って差し上げましょうか?」などいろいろある。目上かどうか、親しいいかどうか、身内かどうかなどによる。以下の3つに分けられる。

  • 地域方言:地域の違いによる言語形式。
  • 社会方言:社会的な属性(ジェンダー・年齢)による言語形式。
    国語学では位相語と呼ばれる。
  • 地域方言と社会方言の両方の影響を受けた方言:「ネオ方言」と「新方言」がある。

地域方言

1970年頃までは方言を排除する方向だった。→特に沖縄で
分布パターンは以下の3つに分けられる。

  • 東西分布型:東日本と西日本で対立する言語分布「西=知らん」「東=知らない」。
  • 複雑分布型:ある言語形式が全国のいろいろな地域である「めだか・おたまじゃくし」。子どもの遊びに関わるものが多い。
  • 周圏分布型:言語形式が中心から外側に円状に変わる「新=デデムシ→旧=ナメクジ」柳田國男の「蝸牛考」に書かれている。

東⻄⽅⾔境界線

「西=聞かん」「東=聞かない」。
「西=雨じゃ」「東=雨だ」。
「西=おる」「東=いる」。
「散っとる」「散りよる」:どちらも西。

共通語と標準語

  • 共通語:1つの国で共通に用いられる言語変種。日本語では東京方言が基盤となる。
    方言に対する言葉が「共通語」。
  • 標準語:国で規範とされる言語変種。上田万年(かずとし)が作った。
    国語の確立のため20世紀初め(明治時代後期)に普及。国語の教科書・ラジオ放送により広まった。標準語で国語を統一しようとした。
    標準語に対する言葉が「共通語」ではない。

東京方言の特徴

・「箱」などが後ろにきた時、連濁を起こす。「ゴミ箱」。
・「北」などの無声音に挟まれた「イ・ウ」が無声化する。「北・草」。
・「若い」などの/ai/が[e:]になる。「わけー・たけー」。
・ガ行が鼻濁音になる。最近は少ない。

沖縄方言

明治時代、方言矯正教育として「⽅⾔札」を渡されて沖縄方言を使った人を罰した。
第二次世界大戦後、ヤマトグチ(大和の言葉)とウチナーグチ(沖縄の言葉)が混ざった。

変化中の標準語

ら抜き言葉・さ入れ言葉・れ足す言葉

社会方言

  • ジェンダー:男女の社会的役割による言語表現の違い「男性=めし」「女性=ご飯」。社会文化的に形成された。
  • 集団語:職業による言葉。専門用語。演劇界で「言い間違う」ことを「舌を噛む」という。
  • 若者言葉:一時的に流行るがすぐ消滅する「マジ」「超」。年配の人に多いのは「T(ティー)」を「テー」という。
  • 隠語:仲間内だけで通じる言葉。
  • 新語:社会に新しい事物が生じた時に生まれた言葉。新しいイメージを植え付ける。
  • 流行語:新鮮さや奇抜さで人々の注意を引き、一時的に使われる言葉。

他にも

  • 幼児語:幼児に対して大人が使う言葉「ワンワン」「モグモグ」。
  • 役割語:特定の人物を思いおこさせる表現「雨かしら→女性」「雨かのう→老人」。
    アニメでよく使われるが、現実では使われていない。「老人:わしじゃよ」「中国人:違うあるよ」。
    現在の位相(年齢・性別・職業による言葉の違い)や位相差を忠実に反映させている訳ではない。
  • 俗語(ぞくご):日常的に使う言葉。「おでこ」は俗語、「ひたい」は一般語。
  • 女房詞(にょうぼうことば):語頭に「お」がつく「おなか・おかず・おでん」、語尾に「もじ」がつく「しゃもじ」。

地域方言と社会方言の両方

地域方言と社会方言の両方の影響を受けた方言。以下の2つがある。

ネオ方言と新方言

  • ネオ方言:共通語と地域方言が混ざり合って生まれた言葉。真田信治が提唱。
    関西方言「けえへん」+共通語「来ない」→ネオ方言「こーへん」。
  • 新方言:若者が使う地域色がある言葉。
    元は方言だったけど、若者がそれを取り入れた。「うざい」「めっちゃ」。
    若者言葉に似てるけど、新方言は一時的ではない。
    マクドナルド:関西圏「マクド」・関東圏「マック」。

言語の多様性

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コード・スイッチング:場面や相手によって使用する言語、言語変換を切り替えること。日本人と思って話しかけた相手が外国人だったことがわかり、英語で話す。
「コード=言語」
スタイルシフト:丁寧さを切り替えること。言語そのものを切り替えるコードスイッチングとは区別される。

コード・スイッチング

  • 会話的コードスイッチング:会話の流れを維持しながら切り替える。
    会話中に友達の言葉を英語に切り替える。
  • 状況的コードスイッチング:状況の応じて切り替える。
    日本語が分からない相手に英語で会話する。
  • 隠喩的コードスイッチング:親密さや連帯感を強めるために切り替える。
    アメリカ駐在の日本人家族の子どもが、親に分からないように英語の若者言葉に切り替える。隠喩=メタファー

スタイルシフト(スピーチレベルシフト)

スピーチレベルシフト・スピーチスタイルシフトともいう。
・普通体→丁寧体:よそよそしさや怒り。
・丁寧体→普通体:なれなれしさや親しみ。

その他の言語変種

  • ティチャートーク:教師が学習者に対して使用する言語変種。
    直接法では既習語彙しか使えないので「一文を短くする」「短文で話す」「大きな声ではっきり話す」など。非文法的な発話はしない(文法に沿って文を作る)。
  • フォリナートーク:母語話者が非母語話者に対して使用する言語変種(語彙がやさしくなる)。
  • ネイティブトーク:母語話者同士が使用する言語変種。
  • ベビートーク:母親が幼児に使用する言語変種(学習者を子ども扱いする)「よくできましたね」。幼児語とは異なる。

言文一致体

書き言葉を話し言葉に近づける。小説に口語文を取り入れた。

・二葉亭四迷「だ調」
・尾崎紅葉「である調」
・山田美妙(びみょう)「ですます調」

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