5.言語と心理

【日本語教師養成講座】5.言語と心理|5.言語習得(チョムスキー言語生得説/JSLとJFL/臨界期仮説/ミステイクとエラー/化石化・逆行・過剰般化/語用論的転移/言語間エラーと言語内エラー)

5.言語と心理|5.言語習得

言語と心理「チョムスキーの言語生得説」「JSLとJFL」「臨界期仮説」「ミステイクとエラー」「化石化・逆行・過剰般化」「語用論的転移」「言語間エラーと言語内エラー」などについてのまとめです。

第一言語習得

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チョムスキーの言語生得説

言語生得説:チョムスキーが提唱。
第一言語習得は「もって生まれた生得的な能力だ」という説。
生成文法理論・生成言語理論とも言う。

言語獲得装置(LAD)

人間には言語獲得装置(LAD)が備わっている。言語の違いに左右されない普遍文法。

  • 肯定証拠:親が子どもに教える「ペンだよ。すごいねー」。
  • 否定証拠:学習者に明示的に教える「行きますじゃないです。行きましたです」。

第二言語習得

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  • 第二言語:目標言語が日常生活で使用されている環境にある。
  • 外国語:目標言語が話されていない国や地域において学習する。

日本語をどこで学ぶか

  • JSL:日本語学習者が日本語を日本で学ぶ(Japanese as a Second Language)。「第二言語としての日本語」の意味。JSLカリキュラム。
  • JFL:日本語学習者が日本語を日本じゃないとことで学ぶ(Japanese as a Foreign Language)。

臨界期仮説

臨界期仮説:レネバーグが提唱。
ある年齢を過ぎると母語話者のような言語能力を習得するのは難しい。
臨界期=思春期までと言われるが・・・音声・音韻は子どもの方が習得が早いが、文の構造(統語)の学習は大人の方が早い。

適性処遇交互作用

適性処遇交互作用:学習者の適性に合った指導法を行うと、高い指導効果が期待できる。

適性:学習者の適性
処遇:指導法

誤用分析

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  • ミステイク:その場限りの間違い。
  • エラー:くりかえし起こす誤り。グローバル・エラーとローカル・エラーがある。

化石化・逆行・過剰般化

化石化:不完全なまま停滞して、それ以上向上しない。
化石化は学習者の母語や既習語の知識が誤りの定着化に関係する。
逆行(バックスライティング):誤用が改善されても、不安や緊張で再び出現する。「おいしかったです」と言えていたが「おいしいでした」と言うようになる。
過剰般化(ハンカ):第二言語の規則を過剰に適用した結果生じるエラー。過剰一般化。
「おいしいのケーキですね」→「の」は名詞と名詞をつなぐから使い方を間違えた。
「泳いで」を「およんで」といった→「読んで」のように撥音化した。

グローバルエラーとローカルエラー

  • グローバルエラー:コミュニケーションに支障がでる誤り。意味が分からないほど大きなエラー。
    「友達にもらった本」と言いたいところを「友達がもらった本」と誤用。
  • ローカルエラー:コミュニケーションに支障がない誤り。

語用論的転移

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語用論的転移:プラグマティック・トランスファーともいう。
文法的には誤りではないが不適切な表現。自国の文化を第二言語に適用することが原因。語用論的な誤り。

・「その服とっても素敵だねぇ」「そうでしょ」
・「コーヒーいかがですか」→「コーヒー飲みたいですか(Would you like to drink)」
・目上の人に誘われた時「約束があるから行きません」→「約束がありますので・・・」と言い止し(いいさし)にするのがよい。

言語間の誤りと言語内の誤り

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  • 言語間エラー:第一言語を第二言語との差異から生じるエラー。負の転移・母語の干渉がある。言語間とは第一言語を第二言語の間のこと。
    「薬を食べる」→中国語母語話者の間違い。中国語の言い方をそのまま訳した。
    「ピアノを遊ぶ」→英語母語話者の間違い。I play piano。
    「教えていただけますか」を「教えることができますか」と誤る→「Can I ask」の直訳。
    「あれは」を「それは」と誤る→英語では「that」が「あれ」「それ」に当たる。
    「来たいです」を「来なければなりません」と誤る→「I have to come」の直訳。
  • 言語内エラー:第二言語の学習の不完全から起こるエラー。言語内とは第二言語のこと。どの国の学習者にもあり、他の言語の影響はない。
    「薬を買いてきました」→「買います」のテ形間違い。
    「ピアノが欲しいじゃないです」→イ形容詞の否定と間違えた。「学生じゃない(名詞の否定)・静かじゃない(形容詞の否定)」と同じにしてしまった。

文法的な正確さに関わる誤用

文法の誤りという意味。
「テストを受けてるうちに、携帯電話が鳴った」:一定時間内の一時点を表すのは「ときに」。変化を表す「うちに」を使った文法的な誤り。

以下の文は文法的な誤用ではない。

・「新しい薬が風邪を治した」:「新しい薬で風邪が治った」自動詞で使うところを他動詞を使った語用論的な誤り。
・「私はどこにいますか」:「ここはどこでしょうか」が正しい。英語では「Where am I」なので語用論的な誤り。
・「誰かが私のパソコンを盗んだ」:「パソコンが盗まれた」が正しい。人を主語にする英語からの語用論的な誤り。

誤用の分類(混同と誤形成)

  • 混同:「目上の人尊敬する」を「目上の人に対して尊敬する」と混同する誤用。「を」と「から」の混同「席立った」を「席から出た」と誤用。
  • 誤形成:「高くても」を「高かっても」と発話した形態上の誤用。
  • その他:「熱38度ある」を「熱38度ある」とした助詞の位置を誤った文法的な誤用。

母語の影響による発音の誤用

  • 韓国語母語話者:有声音と無声音の区別がない。「電線」が「テンセン」となる。韓国語「チョアヨ/ヂョアヨ」は同じ発音に聞こえる。
  • 広東語母語話者:[r]が[n]になる。「苦労」が「クノウ」となる。
  • フランス語母語話者:[h]の脱落。[h]が存在しない。「花」が「アナ」となる。
  • スペイン語ベトナム語母語話者:ヤ行がジャ行になる。「山」が「ジャマ」となる。「パエリャ」は「パエジャ」。

中間言語

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セリンカーが提唱。第二言語学習者独自の発展途上にある言語体系。学習者のその時点での言語能力を指す。第一言語→中間言語→第二言語。
中間言語には可変性がある。

アイデンティティ

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自己同一性・自我同一性。自分がどういう人間か・どうみられているか?
社会的アイデンティティ:性や国籍などの属性。
アイデンティティ・クライシス:第二言語を学ぶ時、自分って何人?と思うこと。

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